もくじ
トラブル件数が10年で約3,000件増加
突然ではありますが、遺産相続に伴うトラブルが年々増えていることをご存知でしょうか?
『弁護士白書』によると、2019年の全国の家庭裁判所で取り扱った遺産分割事件(遺産分割調停や遺産分割事件など)の割合は17.1%で、2016年の16.4%に比べ増えてきています。
親族間で揉めることのないよう、相続の基本的な事を覚えておきましょう。
相続とは何か?
相続とは、財産のある人が死亡した時に、配偶者や子どもに残った財産を承継することです。
財産を残して亡くなった人を被相続人、財産を受け継ぐ人を相続人と言います。
ここで注意が必要なのが、財産にはプラスの価値のある財産(積極財産)だけでなく、借金などのマイナスの価値のもの(消極財産)も含まれるということです。
相続とはプラス・マイナスの価値に関わらず、全ての財産を包括的に承継することなのです。
財産を有する人が亡くなった場合、相続人の範囲とそれぞれの取り分は民法により定められています。
この取り分のことを法定相続分と言います。相続を受ける順序は下記の通りです。
配偶者
⇓
被相続人の子ども
⇓
被相続人の直系尊属
⇓
被相続人の兄弟姉妹
直系尊属とは、祖父母、父母など自分を中心とし、自分より前の直通する系統の親族のことです。
法定相続人に関しては、誰が相続人なのかによって異なります。
例えば、被相続人が夫、妻と子ども2人の家族の場合を見ていきましょう。
この場合、配偶者である妻が1/2を、残りの1/2を子どもで分けることになります。
このように、遺言などで指定されていない限りは、子どもの相続分は均等に分配されます。
例えば、長男が家業を継いでいたという場合でも、子ども同士は均等に分けられます。
他にも、不動産や貴金属といった分配の難しい財産や相続税の問題など、意外とトラブルの原因に繋がりそうな事柄はたくさんあります。
このような事態を防ぐため、生前に遺言を用意しておくことは非常に有効です。
遺言の基礎知識を知ろう
一般的に使用される遺言は「普通方式」と言い、普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、全文を遺言者が自分で書く遺言です。代筆やパソコンで作成したものは無効でしたが、2018年7月の法律改正によって、自筆証書遺言の一部がパソコンでも作成可能となりました。
これにより、手書きによる負担を軽減することができます。特に高齢の方などで、文字を書くことが負担に感じる方には、この改正は嬉しいものなのではないでしょうか。
今回、手書き以外が認められたのは財産目録を添付する場合です。自筆証書に相続財産の全部もしくは一部の目録を添付する際は、その目録については手書きでなくても構わないと認められました。
遺言者がパソコンで作成したり、遺言者以外の人が作成したりすることが可能になり、その際には自書以外で作成した用紙に署名押印が必要になります。
自書以外で作成した財産目録は、自筆証書に添付します。つまり、自筆証書とは別の用紙で財産目録を作成しなければいけないということです。
自筆証書遺言は、遺言者が誰に知られることも無く、いつでも作成でき、保証人が必要ないため、亡くなるまで秘密を守ることが出来るというメリットがありますが、厳密に形式が定められており、下記の法定要件を満たしていないと無効になってしまうので注意が必要です。
≪自筆証書遺言の要件≫
・遺言者が全文を自分で書くこと。
※2019年の改正により、財産目録においては自書しなくても良いと認められました。
・遺言書を作成した日を記載すること。
・遺言者が署名押印をすること。
公正証書遺言
公証役場(公証人が執務をするところ)にて、裁判官などの公証人に作成してもらう必要がある公正証書遺言は、最も確実だと言われる遺言です。
遺言を残す人、公証人、2人以上の証人の立ち合いのもと作成され、その後誤りがないか確認されます。
原本は公証人により保管されるので、偽造などをされる心配もありません。
秘密証書遺言
遺言書の内容を秘密にしたまま、遺言書の「存在」のみを公証人に証明してもらう遺言のことです。
自筆証書遺言と同じように内容を他人に秘密にすることができるうえ、遺言書の偽造などの心配がなくなるメリットもあります。
しかし、遺言書の公証人は内容の確認までは行いません。
いざ遺言書を開いたときに遺言としての要件が満たされていない可能性もあるので、注意が必要です。
さて、次に遺言を残していない場合はどうでしょうか。
その場合は遺産分割協議という話し合いで、最終的に財産の持分を確定させることになります。
遺産分割協議には相続人全員の参加が義務付けられています。
相続人の取り分を公平に保つための制度として、「特別受益」という制度があります。
特別受益
被相続人から生前贈与や遺贈を受けたときの財産を特別受益と言います。
相続人の取り分は法定相続分として民法で定められていますが、特別受益がある場合、相続財産に組み込むことで、相続人間の公平性を保ちます。
では、具体例を見ていきましょう。被相続人の父に3,000万円の財産があり、相続人が長男と次男の兄弟だったとします。
通常でしたら1,500万円ずつの分配となりますが、長男が結婚資金として父の生前に1,000万円を受け取っていたら、この1,000万円は特別受益となります。特別受益分と3,000万円の財産を合わせた4,000万円が相続財産となります。
兄弟の取り分は2,000万円ずつとなりますが、長男は既に1,000万円を受け取っているため、3,000万円の中から1,000万円を新たに相続し、残りの2,000万円が次男の相続分となるのです。
基本的に遺言があれば、あとに残された人は遺言に従うことになります。
相続が生じたときに揉めないためにも、生前に遺言を残しておくと良いでしょう。
また、相続を受ける人も相続についての理解を深め、親族と情報を共有しておくことが大切です。
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おさらい
- 遺言書を準備しておくことで、相続時に考えられるトラブルを防ぐことができます。
- トラブル回避には、相続をする側だけでなく受ける側も、基本的な遺産相続の知識を理解し、兄弟や家族に共有しておくことが大切です。